結論から書きます。投稿者を特定する開示請求は、権利が侵害されたことが明らかなときの手段です。低い評価をつけられた、事実と違うことを書かれた、という段階では、まだこの要件に届かないことがあります。報告と返信で対応できるかを検討できます。ただし投稿者の特定まで考えるなら、記録が残っているうちに動く必要があります。
- 開示請求に進む前に試す手段と、その順番
- 法律が定める要件と、裁判所に納める費用
- 弁護士に相談する前に使える、無料の公的窓口
この記事は、開示請求そのものの手続きを網羅する記事ではありません。手続きの詳細は弁護士が書いたものが数多く公開されています。ここでは、弁護士に相談する前に事業者が決めることを扱います。法令と裁判所の案内は公的な資料で確認しました(2026年9月16日時点)。個別の見通しは弁護士にご相談ください。
先に試す手段がある
投稿者を特定したいと思ったとき、最初に開示請求を検討する必要はありません。手間と費用の軽い順に、3つの手段があります。
- Googleへの報告。ポリシーに違反する内容なら、報告で削除されることがあります。費用はかかりません
- 返信。読むのは投稿者だけではありません。これから検討している人に向けて、事務所や店の姿勢を示せます
- 開示請求。事業者に発信者情報の開示を求めるものです。裁判所に開示命令を申し立てる方法が一般的で、費用も期間もかかります
報告の手順と、通らなかったときにどうするかは身に覚えのないGoogle口コミへの対処にまとめました。返信の書き方は士業の口コミ返信で扱っています。
開示請求で投稿者が分かっても、その口コミが消えるわけではありません。削除を求めるなら、報告か、別の手続きが必要です。特定と削除は別の話だと分けて考えてください。
法律が求めている要件
根拠になるのは特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律です。情報流通プラットフォーム対処法と呼ばれ、以前はプロバイダ責任制限法という名前でした。古い記事は旧名称のままのことがあります。
同法5条は、発信者情報の開示を請求できる場合として、次の2つを挙げています。
- 侵害情報の流通によって「権利が侵害されたことが明らかであるとき」
- 損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他「開示を受けるべき正当な理由があるとき」
「明らかであるとき」という言葉が入っています。納得できない、事実と違う気がする、という段階とは別の水準です。総務省のQ&Aも、加害者と特定できることが明らかであるという要件と、開示請求を受けるべき正当な事由があるという要件の両方を満たす場合に認められる、と説明しています。
なお、ログイン時の通信記録など一部の情報については、同条3号で追加の要件が定められています。何を求めるかによって、満たすべき条件が変わります。
開示命令と、必要に応じて併用する2つの申立て
裁判所の手続きの中心は開示命令です。必要に応じて、目的の違う2つの申立てを併用します。名前だけでも知っておくと、弁護士の説明が追いやすくなります。
| 申立て | 何のためのものか | 条文 |
|---|---|---|
| 発信者情報開示命令 | 裁判所が、事業者に発信者情報の開示を命じる | 8条 |
| 提供命令 | 次にたどるべき事業者の名前を、申立人に知らせるよう命じる | 15条 |
| 消去禁止命令 | 手続きが終わるまで、発信者情報を消さないよう命じる | 16条 |
消去禁止命令があるのは、時間が経つと記録が残らなくなる場合があるためです。条文は、発信者を特定することができなくなることを防止するため必要があると認めるとき、と定めています。思い立ってから動き出すまでの時間は、短いほうがよいということになります。
費用はどこまで分かっているか
裁判所に納める費用は公表されています。東京地方裁判所の案内によると、開示命令、提供命令、消去禁止命令の申立てごとに、それぞれ一申立てにつき各1,000円です。ただし固定額ではありません。同じ案内に、申立人又は相手方が複数の場合には、当該人数分の額の収入印紙が必要となります、と書かれています。このほかに、相手方の数に応じたレターパックライトを予納します。
申立ては書面で行います。同じ案内に、発信者情報開示命令事件は令和8年5月21日から始まった民事訴訟の全面電子化の対象外とされています、と書かれています。
弁護士に支払う費用は、事務所ごとに決め方が違います。今回確認した公的資料には、相場の記載は見当たりませんでした。手続きにかかる期間も、総務省のQ&Aと東京地方裁判所の案内には記載がありません。何か月で終わるという説明を見かけたら、それが何を根拠にした数字かを確かめてください。
弁護士の前に使える無料の窓口
総務省の委託事業として、違法・有害情報相談センターが設けられています。同センターは相談は無料ですと明示しており、相談はフォームから受け付けています。
扱う相談の例として、誹謗中傷を書き込んだ人を特定したい、という項目が挙げられています。情報流通プラットフォーム対処法に基づく発信者情報開示請求書が届いたが対応方法が分からない、という逆の立場の相談も挙がっています。
対応の方向を整理したい段階なら、まずここで相談できます。ただし投稿者の特定を考えている場合は、記録が失われるおそれがあります。窓口の回答やGoogleへの報告の結果を待たずに、弁護士への相談も並行してください。
開示請求に向かない場合
競合が書いたと疑っている場合
疑いだけでは要件に届きません。不自然な口コミへの対処は、報告と、自分の口コミの積み上げ方の見直しが先です。Google口コミがサクラだと疑われる時で、疑われる側と疑う側の両方を整理しました。
星だけで本文がない場合
本文がなければ、どの表現が権利を侵害したのかを示しにくくなります。星だけの評価にどう向き合うかは、返信と口コミの母数の問題として考えるほうが現実的です。
書かれた内容が事実である場合
待たされた、説明が足りなかったという内容が事実なら、開示請求で争う筋は弱くなります。返信で改善の姿勢を示すほうが、読む人には届きます。
動くと決めたときの手順
画面全体が写るように保存し、投稿者名、投稿日、本文、星の数が読める状態にしてください。削除されたり編集されたりすると、後から取れなくなります。
投稿全体ではなく、どの一文がどう事実と違うのかを並べます。要件が「明らかであるとき」である以上、説明できる形にしておく必要があります。
整理した材料を持って、違法・有害情報相談センターか弁護士に相談します。材料があるほど、見通しの話が具体的になります。
この3つを済ませた時点でも、進めるかどうかは決まりません。費用をかけて特定した先に何をしたいのかが、判断の分かれ目になります。
- 開示請求をすれば必ず投稿者が分かりますか
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そうとは限りません。法律は、権利が侵害されたことが明らかであるときと、開示を受けるべき正当な理由があるときを要件にしています。裁判所に開示命令を申し立てる場合は、要件を満たすかどうかを裁判所が判断します。また、事業者が記録を保有していない場合もあります。
- 費用はいくらかかりますか
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裁判所に納める申立手数料は、開示命令、提供命令、消去禁止命令の申立てごとに各1,000円と公表されています。申立人または相手方が複数の場合は、その人数分の額の収入印紙が必要です。このほかにレターパックライトの予納も必要です。弁護士に支払う費用は事務所ごとに異なり、今回確認した公的資料には相場の記載が見当たりませんでした。見積もりを取ってください。
- どのくらいの期間がかかりますか
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総務省のQ&Aにも東京地方裁判所の案内にも、標準的な期間の記載はありません。この記事でも期間の見込みは書きません。ただし、法律に発信者情報の消去を禁じる命令が置かれていることからも、記録が失われる前に動くことが前提になっています。
- 特定できたら口コミは消えますか
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消えません。開示請求は投稿者の情報を開示させる手続きで、投稿を削除する手続きとは別です。削除を求めるなら、Googleへの報告か、別の手続きを検討することになります。
- 自分で申し立てることはできますか
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東京地方裁判所は申立書やチェックリストの様式を公開しています。ただし申立ては書面で行う必要があり、要件を満たすことを示す書き方が求められます。自分で申し立てるか迷う場合は、違法・有害情報相談センターで進め方を相談できます。ただし投稿者の特定を考えている場合は、記録が失われるおそれがあるため、同センターの回答を待たずに弁護士への相談も並行してください。
まとめ
- 報告と返信で片づくかを先に確かめる。ただし特定まで考えるなら、並行して相談する
- 法律の要件は「権利が侵害されたことが明らかであるとき」。不満や低評価とは水準が違う
- 裁判所に納めるのは申立てごとに各1,000円で、当事者が複数なら人数分。弁護士費用は見積もりを取る
- 期間は、確認した総務省Q&Aと裁判所の案内に記載がない。ただし記録が失われる前に動く前提の制度になっている
- 特定と削除は別。相談は総務省委託の窓口が無料で受けている
口コミが来る前にプロフィール全体を整えておきたい方は、士業のMEOをご覧ください。
ここまでが、弁護士に相談する前に決められることです。口コミが増える流れを作るところから整えたい場合はGoogleマップ集客整備でお手伝いしています。
